夕餉の君6 小説(BL)

 彼の瞳に見つめられる度高鳴る心音は何故だろう。


 彼の白い肌に指を這わす度漏れる詠嘆は何故だろう。


 食欲?…性欲?

 ――それとも…


「馬鹿馬鹿しい…」


 雑念を振り払う如くカミュは己を嘲笑う。

 薬を服用していても、安全な調理方さえ見つかれば食する事は可能だ。


 そう、それまでの我慢、だ。

 答えなんか、導き出す必要はない。



「ん…っ」


「…起きたのか…?」


 思考が無意識に筋肉に作用したらしく、頭を撫でていた筈がいつの間にか強く掴む形になっていた。


「あ…カミュさん…お帰りなさい…」


 慌てて指を解くと、彼はふわりと出会った時と同じ顔で微笑む。


「ああ…まだ早い。もう少し眠りなさい」


「はい…あ、カミュさん…?」


「ん…?」


 甘えた声がこそばゆくて、こちらまでつい緩んだ返事をしてしまう。


「早く…食べて下さいね…僕のこと」


「…またそれか。何度も同じ事を繰り返さなくても解ってる」


 彼は日に幾度も自分を食べろと急かす。

 こちらの気も知らないで、時々腹が立つ位に。

 

「すみません…でも…辛いんです。こうして、貴方の側にいるのが…」


「…どうして?」


 初めての反応に、意表を突かれて聞き返す。


「……気持ちが、募ってしまうから…だから、募りきってしまう前に食べて、下さらないと…」


「…気持ち?どんな?」


 何だろう、この胸のざわめきは。

 ある種の警告音のような。


「……貴方が……」


「…私が?」


 いけない。

 それ以上言ってはいけない。

 それ以上踏み込んではいけない。


 小さな警告はサイレンのけたたましさに変わる。


 駄目だ…答えてはいけない!


 けれど、そんな心だけの叫びが彼に届く筈もなく。



「僕は…カミュさんが、好きだから…」


 そう告げて、彼は眠りに落ちていった。



 嗚呼、かつて地上で叡知を誇った人間は、やはり底知れぬ恐ろしさを秘めていた。


 無知を装い素直を振りかざし、こんなにも心をかき乱す。



『食欲か性欲か』


 そんな質問で全てが片付くなら、どれだけ楽だったろうか。



『好きだから』


 出してはいけなかった一つの答えを胸に、カミュは彼の首に優しい力を込める。



『好きだから』



 きっとそれが、全ての正解だった。




 end





終わりました!最後まで読んで頂いた方ありがとうございます(*^^*)

終わりはこんなんですみません^^;

ミラーがお気に入りなんで、彼の話をまた更新していきます。そちらは長くなりますが何卒よろしくお願いします🙏