夕餉の君1 小説(BL)
朝は軽く炙った小鳥を一羽。
昼はハーブを食わせた馬肉の美味しい所を刺身で少々。
そして一日を締めくくるべくディナーには…ここ2ヶ月、何も頂いていない。
最高の食材しか許せないという私の美食意識が、常に食欲の邪魔をするのだ。
ねえ、君は一体いつになったら私の胃袋に収まってくれる?
正直…限界なんだがね。
◆
「アハハハハッ!グルメ侯爵と謳われた君も落ちぶれたもんだな!」
調律を怠った彼の高音域なメロディラインは、繊細な聴覚を持つ者には聴くに耐えない。
それでも長い付き合いだからと、カミュは注がれた酒で唇を濡らし、渋々会話のキャッチボールに参加する。
「私もそう思うさ。しかし不可抗力だ」
「バァカ何が不可抗力だ。臆病なだけだろう」
緩やかに波打つワインレッドの髪を指先で弄びながら、友はハッキリ罵る。
「…ミラー。言葉は慎重に選びたまえよ。そのデリカシーの欠落が、未だに独り身たる所以なんだ」
「私より百歳上の独身貴族様に言われたくはないね」
「……」
公然の秘密を吐きつけられては返す言葉もなく、カミュは黙って陶磁の杯に角度をつけ液体を流し込む。
酔いの巡りが、今夜は鈍い。
「それより君も私みたいに農家と個人契約したらどうだい?下手な情は移らず、おまけに極上のヤツが頂ける」
鼻を鳴らしてミラーがさらりと言う。
彼のように割り切れれば、人生はもっと豊かになるだろうか。
この飢えの苦しみから、解放されるだろうか。
つづく
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