夕餉の君1 小説(BL)

 朝は軽く炙った小鳥を一羽。


 昼はハーブを食わせた馬肉の美味しい所を刺身で少々。


 そして一日を締めくくるべくディナーには…ここ2ヶ月、何も頂いていない。


 最高の食材しか許せないという私の美食意識が、常に食欲の邪魔をするのだ。



 ねえ、君は一体いつになったら私の胃袋に収まってくれる?



 正直…限界なんだがね。



「アハハハハッ!グルメ侯爵と謳われた君も落ちぶれたもんだな!」


 調律を怠った彼の高音域なメロディラインは、繊細な聴覚を持つ者には聴くに耐えない。

 それでも長い付き合いだからと、カミュは注がれた酒で唇を濡らし、渋々会話のキャッチボールに参加する。


「私もそう思うさ。しかし不可抗力だ」


「バァカ何が不可抗力だ。臆病なだけだろう」


 緩やかに波打つワインレッドの髪を指先で弄びながら、友はハッキリ罵る。


「…ミラー。言葉は慎重に選びたまえよ。そのデリカシーの欠落が、未だに独り身たる所以なんだ」


「私より百歳上の独身貴族様に言われたくはないね」


「……」


 公然の秘密を吐きつけられては返す言葉もなく、カミュは黙って陶磁の杯に角度をつけ液体を流し込む。


 酔いの巡りが、今夜は鈍い。


「それより君も私みたいに農家と個人契約したらどうだい?下手な情は移らず、おまけに極上のヤツが頂ける」


 鼻を鳴らしてミラーがさらりと言う。


 彼のように割り切れれば、人生はもっと豊かになるだろうか。


 この飢えの苦しみから、解放されるだろうか。

 


つづく