夕餉の君5 小説(BL)

「…カミュ…?」


 友の異変に気付いて、ミラーが不安げな音を漏らす。


「…興奮したせいで急に酔いが来たようだ。すまないが、この話は改めてという事で良いだろうか…」


「あ、ああ。大丈夫、か?顔が真っ青だが…」


「ああ…」


 何とか笑顔を作って見せると、ミラーも安堵したように笑った。

 口は悪いが、根っ子の方は綺麗な色をしている親友なのだ。


「今、車を出すからな…カミュ…」


「…ん?」


 体を起こして、自分が解いてしまったカミュのネクタイを直しながら、ミラーが呟く。


「…食事の管理位、キチンとしろよ。もう若くないんだから…さ」


 キュッと小気味良い音を立て結ばれたワインレッドのそれは、そう言えば彼のくれた物だった。

 着ける度私を思い出せ!と、顔まで同じ色にして寄越した姿を思い出す。


「ああ。…有難う」

 



 

 ミラー邸から戻ると、かなり深夜だというのに家は明明としていた。


(先に休めと言って置いたのだが…)


 夜間故、指紋照合に設定していたロックを解除し玄関に入るが、中からの反応は無い。

 いつもなら、彼に走って出迎られ苦笑する場面なのだが。


(…まさか…)


 疑念を胸に衣服も寛がさず寝室に向かうと、案の定彼はスヤスヤと、カミュのベッドでお休み中だった。


(これではペット以下だぞ君は…)


 そう窘めつつも、体躯の割に幼いその寝顔に、表情がほころぶのが抑えられない。

 起こさないようにそっと近付き、柔らかい髪を指で梳いてみる。

 するとその感覚に刺激されたのか、グウと自身の腹の音が鳴った。


(…2ヶ月、もう2ヶ月も夕飯を食べていないんだったな)


 この2ヶ月、出来るだけ人との付き合いを避け家で過ごす事を心掛けた。


 朝昼なら妥協も出来るが、一度知ってしまった人間の味、日で最高の食事にすべくディナーはあれ以外許されない。

 しかし、目の前で邪気無く寝息を立てる彼の存在が、他の人間を口にするのも躊躇わせる。


『食べていらしたらどうですか?』


 彼は毎晩そう促すが、カミュは踏み切れない。



 何故、だろうか



つづく