夕餉の君4 小説(BL)

「私といながらナニ考えてるぅー!?私といる時は私の事を考えろおー!!」


 意識を急激に引き戻したのは、ミラーの大人気ない癇癪だった。


「いくつだ君は…」


「かみゅよりひゃっこ下!かみゅよりちょうやんぐ!!」


 酔っている…見事な泥酔状態だ。

 人に密度の濃い質問を投げつけて置いていい気なものだ。


 カミュは呆れつつもミラーを抱きかかえ、ソファに横たえる。


「かみゅ~私は酔ってない~だから帰るなよぉ」


「どの口がほざくか。良いから眠れ。私ももう帰らねば…」


 彼が、待っているから。


 という発言は口腔で消化したつもりだったが、ミラーはガシッとネクタイを掴み、言った。


「…どっちだ…」


「…何がだ。ああ、さっきの質問か?食材としてかペットとしてかという…」


「違う」


 酒の力か、彼の声帯には調律師が入り、刹那に美しい響きを取り戻していた。


 そして緋色の瞳に真摯な光を宿し、彼は問いかける。


「食欲か…性欲か、どっちだ」

 


「…やはり、酔っているようだな」


「私は酔ってなどいない!答えろ!」


「答える必要はない」


「ふん!臆病者の逃げ口上だな」


「何だと…っ」


 ギリッと歯を鳴らし睨みつけるが、ミラーはたじろぐ事はしない。

 それどころか、ネクタイを握り締めた手に益々力を込めて来る。


「答えたくないなら、アレをさっさと廃棄しろよ」


「…廃棄…?」


「そうだ。そうしたら私はもう余計な事は訊いてやらないさ。食べる気も飼う気もないなら、手元に置いておく必要性なんかなかろう?」


 確かに、その二つの理由から見ればそうだ。ミラーの言い分は正しい。


 …けれど。


 それならば始めから手にしたりはしなかった。

 食べたいという気持ちは勿論ある。

 また飼い続けても良いという気持ちもある。


 しかし、そのどちらもピタリとはまらない、説明し難いこの感情は何だ?



『食欲か性欲か、どっちだ?』



「…つっ!」



 胸が、痛い。



つづく