START(百合小説)

(突発短編)


高校生活がスタートしてから少し経ったある日の放課後。

友達になったばかり、アンド入学したばかりで生徒の黄色い声を一身に浴びている、この女子高の王子様、菊名は唐突に呟いた。


「蛍ってカワイイよね」


「はっあっ!!??」


「なんだその変な息継ぎは」


「へ、変なのは菊名じゃない!い、いきなり、かっ、かっ、かあっ」


「カワイイ?」


「……それです…」


「別に変なことないじゃん。カワイイって、女同士ならよく言うし」


「言うけど、菊名は滅多に言わないじゃない…クラスの神流さんにさえ」


菊名が王子様なら、神流さんは、お姫様。つまり美少女。

そんな美少女に対してもカワイイと言う形容詞を使うことはない。

そう言う所が孤高の王子様っぽくていいんだけど。


「んー…あたしはあんまり、何かをカワイイって思うことないから。でも蛍はカワイイって思うよ。何でかね?」


「本人に訊くなよ…!」


返しながらドキドキした。それって、もしかして、菊名も私のことを…。


「……すき」


「…蛍…?今、なんて言った?」


「…え?………ええっえっ!!???」


わ、私今口に出してた!?


「だから、息継ぎオカシイって」


「そんなことない!っていや!そうじゃなくて!す、すっすっすすす」


「…好き?」


「………それですよ…っ」


「うん。やっとつながった。あたし蛍が好きだからカワイイって思うんだ」


ちょっと、この女淡々とカミングアウトしてませんか?


「あ、あの、それって!」 


「あースッキリした。じゃあ帰ろっか」


「は…?いやいやいや!そ、それだけ!?」


「それだけって、他に何かあるの?」


「あるでしょうよ!た、たとえば、私の気持ちを訊くとかさ…」


そう言った途端、菊名の瞳の色が変わった。


「それは、いい」


「なん…でさ」


「…怖いから」


そして、いつも自信満々に前だけを向いている菊名の長い睫毛が、下を向いた。


それで、分かった。


信じられない事だけど、菊名と私の好きは、同じ意味だ。


出席番号が近いことを口実に、勇気を出して声をかけたあの日から始まった、私の好き、と。


「菊名」


「え…?……んっ」


唇を離して、あの日と同じように、私から訊いた。


「私は菊名が好きだよ。菊名は、私が…好き?」


あの日と同じように、菊名の切れ長の眸は少し見開かれて、次の瞬間細められた。



あの日スタートしたのは、高校生活と、二つの恋。



end


不器用な娘を書きてえな、と思って書いたら終着点がよくわからなくなった…。

私ってばいつもそう…優柔不断なおんな…!(誰か撲った方がいい)