えちゅーど(百合)

 確かに、その日の目覚め方は一風変わっていた。


 瞑ったままの瞼は血管に赤く浮かび、私の体は浮遊感に襲われた。


 アラーム代わりの聴覚越しではない脳髄に染みるソプラノは、呪文めいたことをほにゃらか囁いていた。



 だからって、だからってさあ!!



「おお!貴女様こそ伝説で語られていた勇者様です!どうか我らが村をお救い下さい!」


 なんて、ちょっと気紛れに立ち寄ってみた村長の爺様に拝まれたって困るわけよ。


 あんた昨日は、


「おんめぇまーだ村におっただか。出戻りでアラサーでお一人様なんて、可哀想だなぁ…」


 って農作業で疲れた私に余計な憐れみ投げ掛けてたじゃないのよ!


 大体癪だけど、村長も言ってた通り、私は女で三十路で、しかもバツイチなのよ? こんな枯れた私が勇者だなんて…。


「あ、見事魔物を倒した勇者様には、この美しい姫様を下さるそうだ」


 そう言って村長がペラリと伸ばしたポスターには、まるで絵本から飛び出してきたような美しい女性が画かれていた。


 白く透き通った滑らかな白い肌。薔薇の花びらを重ねたような美しい唇。星空が溶けた煌めく眸。


 そして、うちの村名物・うしのちちまんじゅうよりも、まん丸く張った大きいおっぱい。


「……やる」


「は?今何と言いなさった?わしゃ耳が遠くてのう…」


「だーかーらー!!!なるっていってんの!!私が!!!その…伝説の勇者様とやらに!!!」


 そう高らかに宣言した私はその日、慣れ親しんだマイ鍬を剣に替え、旅に出る決意をしたのだった。


「……で、とりあえずどっち行けば良いわけ…?」



後書き

習作なんで続くかはわかりませんが。ちょっと書いてみたかったのです。