灰のお城(小説)

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novel

灰のお城

 

グレーのグランドピアノの自動演奏は、耳障りな程美しい旋律を奏でる。


少女は童話を捲り、ピアノにも負けぬ善く響く声で云う。


「あら大変、シンデレラの魔法が解けてしまったわ」


緑の黒髪、陶器の様に滑らかな白い肌。

半月型の大きな瞳は繊細で長い睫に縁取りされ、瞬きする度にサワサワと鳴く。


少女は童話を愛でクスクス笑った。


「欲の皮を突っ張らせるからよ。調子に乗って踊り狂うからよ。良い気味だわ」


そして笑いながら後の頁を破り始める。


「シンデレラは馬鹿な娘の間抜けな場面で締めるが相応しいわ。一夜の夢に縋って生きなさいな、お嬢さん」


クスクス、端整な容貌を惜しげもなく歪ませ少女が笑う。


ピアノはプログラムを終了し、いつの間にか事切れていた。


少女はそれを睨みゆらりと身を翻し、寝台に目を向ける。


――乱れたシーツ――醜い男の裸体――。


先程までの行為の跡が生々しく残るそれを、少女はクスクス笑う。


サワサワと、睫を鳴かせながら。


「ねえシンデレラ。私達は一生灰にまみれたままなのよ。王子様なんて幻想なの。物語は、魔法が解けたら終わりなの。…嘘だから」


少女はクスクス笑う。



長い睫を、サワサワと泣かせながら。



end