夕餉の君2 小説(BL)
『人間』の歴史に終止符が打たれて直八世紀。
始めの三百年程は、その生き残り達は生きた遺産だともてはやされていたが、ある学者の研究発表によりそれは一変した。
『人間は我々が必要とする栄養価全ての最高水準をクリアした究極の健康食品である』
姿形まるで同じ彼らを食べる?そんな馬鹿な事が出来るか?
そんな吹きかけた世間の逆風が己に届く前に、学者は次々と実験結果を発表し、民衆を魅了して行った。
『医者も匙を投げた不治の病が人間の肉を食べた途端立ちどころに良くなった!』
『人間の体液を化粧水代わりに使ったらお肌がツルツルに!』
『人間の骨を煎じた茶を飲んだだけで三日で10キロのダイエットに成功!』
『三ツ星レストランも太鼓判!人肉の芳醇な味わい!』
効能、そして味…それらは人々を納得させるには充分な力を持っていた。
人間…正確には旧人類は、その知能の低さ、稀少性の観点から、それまで鑑賞的価値の高い『ペット』として位置付けされていた。
しかしこの発表を機に、彼らの地位は無惨なまで引きずり下ろされたのだ。
『新人類』の、セレブリティな食事に。
「大体さあ、何でそいつを生きたまま買って来たんだい?今時ペットに人間を飼うなんてナンセンスだろ」
ミラーの言う通り、一時期流行ったペットショップ『人間屋』は廃れて、今は見る影も無い。
そして代わりに登場したのが『人肉屋』だ。
手軽に人肉の好きな部位を買えるとあって、高まる需要に応じあちこちに店が出来つつある。
人肉ブームのお陰で、下降線を辿る一途であった第一次産業も、にわかに盛り上がりを見せてるらしい。
「別に飼うつもりで購入した訳ではない…」
「じゃあ何で?」
己の髪色と同じ葡萄酒を二本空けて気分を良くしたのか。
ヘラヘラと締まりのない顔でミラーが訊く。
「…何故って」
2ヶ月前の『彼』の姿を思い起こし、カミュは理由を探してみる。
(あの日は確か…空腹に苛まれていたんだった…)
つづく
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